組織再編手続における債権者保護手続の要否の比較(合併、会社分割、株式交換・株式移転、株式交付、組織変更)
2021.07.16更新
債権者保護手続とは?
本ブログで折に触れてはおりますが、債権者保護手続とは合併、会社分割等の組織再編を行う際に、組織再編を行う当事会社の債権者に対し組織再編を行う事につき異議が無いかどうかを申し出る期間を設け、期間内に異議を申し出た債権者には当事会社は原則としてその債権者に対する残債を全額弁済しなければならない手続を指します。
つまり、組織再編を行う事に納得のいかない債権者は、当事会社からの弁済を即時に受ける事で当事会社との債権関係を解消する機会を与えられる趣旨であるわけです。
なお、債権者保護手続が完了しないうちは合併、会社分割等の組織再編は効力を発生しないとされているため(会社法750条6項など)、債権者保護手続の必要性の有無は組織再編を行う際は必ず検討をしなければならない論点の一つと言えます。
債権者保護手続の期間と方法
債権者保護手続に要する期間は最低1か月間であり(会社法789条2項但書、799条2項但書、810条2項但書、816条の8の2項但書)、債権者はこの最低1か月の間、上述の異議を当事会社宛てに申し出る機会を与えられます。
他方、当事会社側からすると1か月間きっかりを債権者保護手続のためのスケジュールとして見ておけば良いのかというと、それだと実務上は回りません。債権者保護手続の具体的な方法は原則は官報ですが(同789条2項本文、799条2項本文、810条2項本文、816条の8の2項本文)、実際に押さえられる掲載日は官報を申し込んだ日から最低中11営業日~13営業日程度(日数では無く、営業日ベースであることが注意点です。
なお、各官報取次会社によって多少異なります。)要するため、結局、日数では最低1か月+3週間程度、つまり最低2か月弱は債権者保護手続に要する期間として見ておかなくてはならないのです。
債権者保護手続の要否の比較(必須なのか、それとも省略可能か)
上述のように債権者保護手続は手続そのもののリスク(=特に金融機関が債権者である場合、万が一異議が出されたら取り返しのつかない事になる)、必要な期間のリスク(=スケジュールの組み立てを誤ると組織再編手続そのものが不適法となり、組織再編が所定の期日に達成できなくなる)に直結するため、債権者保護手続が必要なのかどうかは非常に重要な論点です。
そこで、以下組織再編の類型ごとに債権者保護手続の要否を見ていきたいと思います。
◇合併
債権者保護手続は必ず必要です(省略が可能な例外はありません)。
◇吸収分割
分割会社側では債権者保護手続を省略することが可能ですが、承継会社側では債権者保護手続は必ず必要です(承継会社では省略が可能な例外はありません)。
つまり、吸収分割の場合、手続全体としては債権者保護手続が必ず必要となり、かつ要する期間も上述のとおりで短期化は不可能、という事になります。
◇新設分割
債権者保護手続を省略することが可能です。ただし、いわゆる分割型分割と呼ばれる新設分割の手法(新設する新会社の発行する株式を現物分配等の方法で新設分割と同時に分割会社の株主に割り当てる新設分割の手法)では、債権者保護手続を省略することは不可能となります。
よって、新設分割のスケジュールは分割型分割で無いときで債権者保護手続を省略する場合、短期化が可能です。
◇株式交換・株式移転
債権者保護手続を省略することが可能です。ただし、殆ど実務上の例はありませんが、株式交換をする際に株式交換完全親会社が交換対価として完全親会社の株式以外の財産(現金など)を交付する場合等は、債権者保護手続を省略することは不可能となります。
よって、株式交換・株式移転のスケジュールは、原則として短期化が可能です。
◇株式交付
債権者保護手続を省略することが可能です。
よって、株式交付のスケジュールは、原則として短期化が可能となります。
◇組織変更
債権者保護手続は必ず必要です(省略が可能な例外はありません)。
以上のように、債権者保護手続の要否は各組織再編の類型によって異なってくるため、債権者保護手続は省略可能か、組織再編のスケジュールは短期化が可能かどうかについて、しっかりと整理することが重要です。
最後に、以下は上記の債権者保護手続の要否に関する比較を纏めた一覧表となります。
※表は横スクロールできます
合併 | 吸収分割 | 新設分割 | 株式交換・株式移転 | 株式交付 | 組織変更 | |
---|---|---|---|---|---|---|
債権者保護手続の要否 | 〇 | ▲ | △ | × | × | 〇 |
備考 | – | 吸収分割承継会社側では省略不可なので、全体としては省略可能な例外は無し | 分割型分割では省略不可 | 株式対価以外は省略不可だが、実務的には基本的に省略可能という認識で可 | – | 株式会社→持分会社、持分会社→株式会社いずれの類型も省略は不可 |
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